Japan Australia Information Link Media パースエクスプレス

 

日本発豪州行き 蹴球戯言
Vol.208/2015/05

第10回「オーストラリアと日本のクラブオーナー」


 本誌お膝元のパース・グローリーは、リーグ前半戦は好調でしたが、終盤に首位から転落。しかしながら、ファイナルシリーズ出場を確定していたのにも関わらず、サラリーキャップの規定違反で残念なシーズンとなってしまいましたね。来シーズンの巻き返しを期待しましょう。
 さて今回は、そのグローリーの規定違反でも渦中にいるクラブの持ち主、つまりサッカークラブを所有している“オーナー”をテーマにしてみました。では、恒例の問題です。

【Q】 皆さんが応援しているクラブのオーナーは、次の①と②のどちらが望ましいですか?
①クラブを所有対象とし、巨額の投資は期待できないが愛情をもって所有してくれるオーナー
②クラブを投資対象とし、巨額な資金を投資してくれる金満オーナー

【A】是非はともかく、答えは出ないでしょう(笑)。メリット、デメリットの双方が相殺しあって、どちらが正しいとは言えません。また、サポーターやファンの皆さんが、クラブへ求める“要望”が、どのようなものかによっても変わってきます。

 かつての欧州メジャークラブは、①に類似したオーナーがほとんどでした(ドイツでは、いまだにオーナーは名誉職で、肩書きによる収入がゼロのクラブもあります)。自身のステイタスを上げ、名誉欲を満たすためで、性格としても篤志家のようなオーナーが当たり前の時代がありました。

 ところが、クラブが莫大な金を産む投資対象と認知され始めた90年代後半から、いわゆる②の金満オーナーがクラブを所有し始め、スター選手を獲得するために巨額な資金を計上し、クラブを世界的な人気者にして、マーチャンダイジングによる莫大な利益を上げることに成功しました。そして、投資が利益を呼ぶ勝者のサイクルを作り出したのです。

 現在、世界のサッカークラブは、企業体となっています。オーストラリアも日本もクラブが株式会社やそれに準ずる団体であることがほとんどです。そのクラブは、応援してくれるサポーターやファンが最も大事にすべき対象で、その人達に喜んでもらうべき経営をしています。しかし、企業として最終的には多くの利益を上げることが最重要命題となっているのです。


 では、サポーターやファンがクラブに求める“要望”とは?「地元のおらが町のクラブであり続けて欲しい」のか「ひいきのクラブが世界的なビッグクラブになって欲しい」のか、という両極端な要望を仮定してみましょう。

 実際、オーストラリアや日本のクラブが、世界トップクラスのクラブを目指すのであれば、②の様なオーナーにクラブを所有してもらうべきでしょう。そして、マーケットを国内ではなく世界に広げ、幅広いサポーターやファンを呼び込む必要があります。しかし、後発である両国が、果たして欧州のメジャークラブに肩を並べることができるのか。

 オーストラリアはリーグが成長過程であり、今後、世界的な大富豪が経営に参画し、莫大な資金が動くことはあると思いますが、投資対象としては残念ながら可能性は低いと思います。一方、日本にはそれ以前に「サッカークラブのオーナーは日本人でなければならない」というリーグ特有のルールがあり、世界的な富豪がオーナーになりにくい現実があります。

 近い将来、両国のクラブ共に世界的なお金持ちにオーナーになってもらうことは難しいかもしれません(しかし近年、イングランドの某メジャークラブのオーナーである投資グループが、両国の某クラブの経営に参入しだしましたね!)。ただ、現実には両国のクラブ経営陣や、サポーターやファンも、“そこ”までは望んではいなかもしれません。「国内では○△□クラブを応援するが、欧州では●▲■クラブの大ファンです!」と言ったサポーターやファンがほとんどで、要望として「国内のひいきクラブには、おらが町のクラブとして存在し続けてもらい」「国内には、現役バリバリで世界的スーパースターのプレーは望まず、そういったことは欧州メジャーに望む」といったような“並列型サッカー好き”が多くを占めているのかもしれません。


 さて、オーストラリアも日本も個性的なオーナーがまだまだ出現していない昨今ですが、例えば、選手や監督よりもオーナーが目立つ様なクラブが1つや2つあっても良いのではないかと思っています。ワンマンでわがままだけど、有能なオーナーに権力を一極集中させて、成長過程にあるクラブを急成長させるためにも、トップダウン方式で経営させた方が結果を得やすいのではないかと筆者は本気で思っています。

 将来的には、両国リーグが欧州メジャーを飛び越える日が来るとも思っています。むしろ、あまりにも金満化したサッカー界を危惧しています。そして、このままサッカー界の金満化が、肥大していくとは思えません。何時しか堅実に、地道な経営をしているリーグが世界トップクラスになるのではないかと思っています。

 そこで、冒頭の問題に対する筆者の考えは「一時的に莫大な資金を投下してもそれを継続できないならば、欧州メジャーのモノマネをする必要はなく、おらが町のクラブの規模を少し大きくし、国内におけるビッグクラブを目指すべきである」となります。①と②の間と言えるでしょうね。