Japan Australia Information Link Media パースエクスプレス

 

リレー小説
Vol.234/2017/7
第13回
【前回までのあらすじ】
沢田百々子、30歳。シェアメイトのリンが学校で襲われかけた。百々子は怯えるリンを迎えに行き、帰宅するとそこにはあの恩田正平が立っていた。

第19走者
筆者:豊田


 タクシーから降りたリンは、「彼が…」と言って、私の後ろに隠れた。「私を追ってトイレに…」と、そう付け足すとまた怯えるようにして、後ろから私にしがみついてきた。

 恩田正平は一点を見つめたまま、視線は動かなかった。その一点の先は私だったが、どこか私とも焦点が合っていなかった。

 「恩田君…」
 「・・・・」
 「どうした…、なに…?」
 「・・・・」
 「そこ、いい?どいてくれる」
 「・・・・」

 恩田は一言もしゃべらなかった。恩田の横を通り抜け、まずはリンを部屋に届けた。リンと目で合図して、エントランスに戻ると、恩田の姿はなかった。思い返すと、あの恩田の顔は別人のようだった。百々子が今まで見たことのない恩田の、正気のない顔に一抹の不安が残った。


第20走者へ続く ←この続き、ご応募お待ちしております!