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リレー小説
Vol.225/2016/10
第4回
今回は、前号の2名から1名がバトンを引き継ぎました。


【前回までのあらすじ】
沢田百々子、30歳。失恋を機にサンフランシスコからワーキングホリデーでパースへ。パスポートを失くすも、バックパッカーズにチェックインはできた。

第5走者
筆者:くろてん


 備え付けのドライヤーは音がうるさいばかりで、風が弱く、途中で乾かすのを諦めて外へ出た。日本国総領事館の場所は調べてある。イエローキャットという無料循環バスに乗って、Colin Streetで降りたら目の前だ。バス停に向かう途中で立派な建物に囲まれた広場を横切ると、サボテンのようなオブジェがあって、ガイドブックに載っていたやつだと思ったが、さして興味も湧かずそのまま通り過ぎる。向かいのパース駅は、白とレンガ色のお洒落な外観で、立ち寄りたい衝動に駆られたが、今はそれどころではない。

 バス停につくと、既に何人もの人がバスを待っていて、表示にはあと7分とある。サンフランシスコの無料バスはルートも本数も少なくて全然使えなかったけど、パースでは地元民の足として活躍しているようだ。

 しばらくして、クロネコというよりクロヒョウに近い絵柄のバスが到着すると、周りで待っていた人たちはバスに群がり、前後の扉が開いて乗客が降りるや否や、中へと吸い込まれていく。私も乗り遅れまいと焦って群れに飛び込んだ。バスは各駅に停まっているようで、表示と音声案内に神経を集中して、無事にColin Streetで下車した。

 周りは住宅街で、辺りをうろうろ歩き回るも、総領事館らしき建物は見当たらない。どうしよぅ。。。もっとちゃんと調べてくればよかったと後悔した。信号待ちをしているお婆さんがいたので、後ろから声をかけた。アジア圏の人かと思って、「Excuse me. Do you know where is consulate-General of Japan?」と尋ねたら、「あぁ、総領事館ですね。そこの建物の2階ですよ」と日本語が返ってきてびっくりした。「あ!日本の方だったんですね。ありがとうございました」と言って、指差された建物に向かった。アメリカに3年いて発音は自信があったのだけれど、日本訛りだったのかな…。いやいや、日本国総領事館の場所を聞いているんだから、きっと日本人だと思ったんだよね…と、もやもやしながら建物に近づくと「Consulate-General of Japan in Perth」の看板を発見して安堵した。

 狭いエレベータで2階に上がると、中東系の怖そうなおじさんが入口で待ち構えていて、荷物を置いてから、携帯や金属製のものを取り外して、ゲートを潜るよう指示してきた。ゲートを何事もなくくぐり抜けると、今度はリュックを開けるように言ってきたので、何も入っていない中身を見せた。そのおじさんから入室OKをもらって中に入ると、頑丈そうなガラスの向こうから小奇麗な女性が「おはようございます」と声をかけてきた。母国の機関の人だからだろうか、妙に安堵して、パスポート紛失のことを一気にこの受付の女性に喋った。彼女は私が一通り喋り終わるのを待って、静かに一枚の用紙を取りだし、パスポートの再取得にはその用紙に書かれた一連の書類の申請が必要なこと、手数料がかかること、警察に届け出る必要があること等を説明してくれた。「お手数をおかけします」と軽くお辞儀をして、もらった用紙をリュックにしまった。

そこでようやく余裕ができて、部屋の様子を観察すると中は意外と狭く、待合用の机と椅子、それにガラスで仕切られた受付があるだけだった。壁には「選挙権年齢が18歳以上に」と書かれたポスターに、ショートボブの瞳の大きな女子高生が写っている。確か前にYAHOO JAPANで見たことのある子だけれど、名前も何の記事だったかも思い出せない。

 帰ろうとドアに向かうと、あの中東系のおじさんは笑顔になっていて、「サヨナラ」と片言の日本語で送り出してくれた。不意に日本語で挨拶をされて、なんて返したらよいかわからなくなってしまい、曖昧なお辞儀をして部屋をでた。パスポートを再取得できたのはそれから一週間後だった。


第6走者へ続く