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フォトジャーナリスト宇田有三氏による衝撃ルポ

On The Road by.Yuzo Uda

Vol.209/2015/06


再度—《ビルマ(ミャンマー)の「ロヒンジャ問題」を
てがかりにして》



On The Road by Yuzo Uda
ビルマ(ミャンマー)西方、ラカイン州の村に暮らすロヒンジャ・ムスリムの子どもたち(2010年)。


 この問題を追っていた取材者が極めて限られていたためか、私の元にもテレビ出演(生放送や英語放送など)の依頼が舞い込むほどであった。しかし、そこで問題があった。テレビでこの問題を扱うには、解説する時間が極めて限られていたのだ。
 テレビでは、人身売買組織の犠牲者の姿が粗末な船で海上をさまよう避難民として映し出された。それ故、その映像だけが一人歩きし、ロヒンジャ問題の背景まで掘り下げる番組は、私の知る限り、ほとんど無かった — それでも、ロヒンジャの人びとの存在が注目を浴びて、人命が救われるのなら、報道される方がまだいいが。
 テレビで私が強調したのは、今、生命の危機にさらされている人びとを救うのを最優先にすべきである — そして、ロヒンジャ問題の本質は、人身売買問題や宗教紛争・民族紛争ではなく、あくまでもビルマ軍政時代の政府が行った政策に原因があることを忘れてはならない、と説明した。
 ビルマ軍政は、自らが権力を維持するために、社会全体を汎ビルマ化する政策を推し進めてきた。その際、ビルマ社会の裏に潜んだ少数者やイスラーム教徒(ムスリム人)に対する強烈な差別意識 — 「仏教徒ビルマ人>仏教徒少数派民族>キリスト教ビルマ人>中国系ビルマ人>キリスト教やヒンズー教少数派民族>ビルマ系ムスリム人>中国系やマレー系ムスリム人>ロヒンジャ・ムスリム」という構図 — を利用してきた。
 これは一見すると、宗教や民族が複雑に絡まっているようだが、そうではない。ビルマ国内で問題や紛争が起こる度、軍政によって生み出されてきた社会構造が背景にあることを、常に頭の隅に置いておかなければならないのだ。このロヒンジャ・ムスリム(ベンガル系)が数十万人の避難民としてビルマからバングラデシュに逃れた事件は、1978年・1991年・2009年と起こってきた。そういった意味で、ロヒンジャ問題は、あくまでもビルマ軍政の負の遺産なのである(詳細は過去の連載に書いた)。
 そして今回、海上を漂流する避難民の姿がテレビに映し出されることによって、世界中にロヒンジャ問題の存在を改めて知らしめることになった。民政移管した現在の政府が本当に民主主義の道を歩もうとするなら、軍政時代の過去の負の遺産を直視して、その負の遺産を改めることにこそ、新しい民主的な政府としての道を踏み出したといえるのである。国際社会もまた、このロヒンジャ問題が単に人身売買に限られた問題だと見誤ってはならないのである。