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ドロップアウトの達人 Vol. 63
 

 最初にこの記事が世に出る頃には既に総選挙の結果は出ていることを前提にして、今回は始めます。オーストラリアでは、長く労働党が政権政党でしたが、ここ5年程はハワードの自由・国民党連合が政権を握っています。今回の選挙の争点がどこにあるのかといいますと、毎度、民衆の気持ちをつかむのが上手なハワードのこと。前回のタコマ事件(難民を乗せた船と子供を海に投げ入れた事件)の扱いを巡って話を作り上げ、選挙の票に繋げたやり方が今回も散見されています。また、あなたのような学生にはあまり興味を持てない話かもしれませんが、今、この国に暮らす多くの人達が、80年代の日本のように非常に不動産に興味をもっています。この4、5年で高騰した不動産を持っている人達は、あの頃の日本人と同じで、家を転がして豊かになれるという降って沸いたような神話を信じてしまっているのです。

ハワードは最近、今回の選挙で労働党が勝利を収め、政権が変わるようなことになった場合、間違いなく住宅ローンが跳ね上がって、皆さんの夢をつぶす結果になるだろうと発表しています。皆さんの夢、つまり家を転がしたり、2つも3つも家やアパートを所有して、その利ざやで生きていこうとする夢。家を2つも3つも持っている人がいるということは、家をもてないまま、一生“水のみ百姓”状態で暮らす人が、家持ち1人に対して2人も3人も存在する需要と供給のバランスを意味します。

悲しいかな人間とは、実にそういう生き物なんだと思います。独身の頃には家なんて持つことすら考えたことのなかった若者が、結婚して子供ができると、もしもお金に余裕があるのなら、将来手が届かなくなってしまう前に、その子供の頭数分家や不動産に投資しておこうと真剣に考えてしまうのです。ただ、そういう生き物である人間に対して、家を2件以上持っていると所得税の納税額が大きく減税される現在のしくみや、それに気が付いてラットレースを始めてしまった多くの人達、そのラットレース勝ち組が手にし始めた複数の不動産や、高級外車、マテリアリスティックなライフスタイルが及ぼす、その他のまっとうな人達への影響を、今後どのように軌道修正してゆくのでしょうか?

それに対する答えが、ハワードの口にする「住宅金利据え置きや、公立の学校にではなく、“トラディショナルなこの国の文化を守る”プライベートスクールに、より多くの資金援助を行なう」やり方なのでしょうか?僕は、この4、5年のこの国で起きているラットレースを眺めていて、しみじみ考えてしまうのです。果たして、人の幸せはお金で買えるものなのでしょうか?好きな人がいて、一緒に生きていける幸せを味わっているような人達までが、1日、1秒を惜しんで、家転がしや、不動産バブルに飛びついているのでしょうか?そういう行為が、ひいては自分の気持ちの隙間を、モノで埋めるようなことになりはしないのでしょうか?そういう意味で、今回の選挙には興味がなくもありません。人は皆それぞれの幸せを求めて日々努力を繰り返しています。毎日正解ばかりが続くとは限りません。だったらなおさら、お金に換えられない“モノ”でも集めてみようじゃありませんか。

回答ZORRO

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