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明日は来る It wasn't my day today, but tomorrow will come.
Vol.179/2012/12

最終回「不屈」


最終回「不屈」


 山田がパースに来て、10ヶ月が経とうとしている。海外に来たという意識も薄く、自分が日本人である、というアイデンティティにもそれほど固執しなかった。サッカーには国籍は関係なかった。
 オーストラリアのサッカーについては、自分なりに想像をめぐらせてパースに来たが、いざチームに加わり、一緒に地元の選手と練習や試合をしてみると、先入観はすぐに消えた。そして、個人が持つ技術のポテンシャルは高い、それが山田の感想だった。

 山田は、自分のプレースタイルでの長所となるフィジカル面での強さに関して、自身では通用したと感じている。むしろ、優っていたと思っている。日本人サッカー選手がオーストラリアのサッカーの特徴を尋ねられると、必ずと言っていいほど「体格を活かしたプレーが得意」と返ってくる。そのフィジカル面で、山田は対等に戦えた。ただ、もう1つのストロングポイントであったロングパスについては、封印せざるを得なかった。理由は、チームの戦術にロングパスが入っていなかったからだ。山田は、その点だけは悔いている。監督の戦術を無視して、いくら得意なロングパスを試合中に蹴っても、周りの選手は反応できない。当然、監督の指示にはないからだ。「自分が合わせなければいけない」ことも理解している山田は、自分を活かせない場所ではプレーできない、ピッチには立てない、とも考える。だから、サッカー選手には移籍が必要なのかもしれない。