「明日への希望」

 「隣の子持っていた長いクレヨンが眩しかったなあ」ベトナム人のグェン・バン・コーイさん(39歳)が流ちょうな日本語でつぶやいた。今から20数年前の1970年代末、ベトナムから、いわゆるボートピープルとして日本にたどり着いたグェンさんに、故郷での思い出話を聞いていたときのことだ。親指の先を小指の第一関節に当てながら、「僕が持っていたのは、このくらいのちっちゃなクレヨンだったから」戦争を経験した子供時代を思い出してか、懐かしそうに話してくれた。画用紙いっぱいに絵を描く、ノートに鉛筆で字を書く。安全に学校に通って、教室の中で学ぶ。当たり前のことのようだが、勉強に集中できるとは、なんと贅沢なことだろう。グェンさんの話を聞きながら、私の思いは中米へ、東南アジアで出会った人々へ飛んだ。


 「バシャ、バシャ、バシャ。」
 大きなシャッター音を鳴らしながら彼女に近づいていった。20mmと24mmの超広角レンズをつけたカメラと彼女との距離は数十センチもない。しかし、彼女は顔を上げようともしなかった。驚くべき集中力でノートに向かっていた。

 

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