ドロップアウトの達人 Vol. 50
 

 オフサイドトラップを有効に機能させるための最もわかりやすいフォーメーションのひとつがフラットスリーです。
 サッカーを詳しく知らない人のために少し説明しておくと、フラットスリーとは、チームの最終ディフェンスラインを3人のディフェンダーが横一線に保つことによって作られるフォーメーションを言います。普通、子供達の場合には、フラットスリーの後ろにストッパー(スイーパー)を1人置いて、最終ラインを突破してきた相手フォワードをつぶす役割を与えています。そのため、相手のシュートをつぶす機会は増える代わりに、オフサイドを意図的に取る機会も、無くなってしまいます。
 通常、フラットスリーは、最終ラインを押し上げることから始まります。少年サッカーの場合、大体ハーフウエーラインから20m手前くらいまで、最終ラインを押し上げるのが普通です。そうすると、オフサイドを取られたくない相手側フォワードは、どうしてもその内側でプレーしなければならなくなります。大抵のチームはストッパーを置いているフォーメーションですから、自軍ゴ−ル直前までバックスが下がってしまっています。そのため、ゲームの展開は、自然と自陣深くに引いてボールを奪い合う形になっていきます。普段は目一杯使えていたはずのグラウンドが、およそ半分のスペースに制約され、相手側チームにとっては、そこでは細かくボールをつないでいくパスワークこそが、テリトリーを広げて行く唯一の有効手段となり、普段の豪快なドリブルや、個人技は通用しなくなります。逆に細かいパスワークを成立させるためには、ボールをいじる以前に絶えずプレーヤー同士が動いて、空いているスペースを埋めていく陣取り作業を繰り返さなければなりません。相手チームにとってのゲーム開始直後のこの不慣れな状態は、やがて押し上げているディフェンスラインとゴールキーパーの間の、広く空いたスペースにロングボ−ルを落とせばいいんじゃないか(相手側2列目からのボール)という流れに変って行くはずです。

 そこで、オフサイドトラップの説明です。オフサイドを知らない人のために、付け加えておくと、オフサイドとは相手(攻撃側の)選手が、守備側の選手で一番ゴールキーパーに近い位置の選手(最終ライン)を越えてボ−ルを受けてしまった場合、反則が課せられるルールで、その場所からフリーキックが与えられるのですが、もう一つ、このルールにはややこしいところがあって、攻撃側のボ−ルを受けた位置が、たとえ最終ラインをはるかに越えて、ゴールに近い場合でも、そのボールを蹴った人(パスの送り手)が、ボールを蹴った瞬間に守備側のディフェンダーを越えない位置で、フォワード(パスの受け手)が立っていさえすれば、問題無いということになるのです。ですから、最終のパスが出た瞬間に、最終ライン手前のフォワードがものすごい勢いで飛び出して、ディフェンダーを大きく引き離してボールを受けたとしても、それはオフサイドにはならないのです。必然、チームの最終ラインと相手側のフロントライン(フォワード)は、いつボ−ルが来ても出遅れない位置に、位置取りをするようになります。それがだいたいハーフウエーラインを挟んで、自陣20mあたりなのです。
 そして、ここからが一番大切なのですが、この時、守備側の(あなたのチームの)選手は、ボールが出てきた時に、相手フォワードに裏を取られないようにいち早く、対応しなければなりません。ボールが出てくるところというのは、かならず相手の2列目か、それより下ですから、その2列目より下(特に2列目)の選手がボールを受けた(持った)瞬間の、その選手の身体の姿勢が大事になってきます。つまり、その選手がゴール(あなたのチームのゴール)に向かった姿勢でボールを受けていたとしたら(顔や身体があなたの方を向いている場合)、オフサイドトラップはもう間に合いませんから、フラットスリーは相手フォワードにフリーで飛び込まれない為にも、いち早く自陣ゴールと相手フォワードを結ぶ線上に(パス進路を阻止するために)、戻らなければなりません。逆に、その選手が、背中を向けてボ−ルを受けていた場合、そこには彼が振り返ってゴールに向かい、パスを出す時間的余裕がまだありますから、フラットスリーは躊躇なくアップして、相手側フォワードをオフサイドの位置に取り残す位置取りをするのです。文章にしてしまうと簡単なのですが、この判断がとても難しい。

 まず、フラットスリーをコントロールする真中の選手が、両サイドの選手に掛け声をかけて同時にアップ、ダウン、を繰り返す練習から始められるといいと思います(キャプテンの選定)。動く癖が身についてきたら、今度はきれいにラインをコントロールする動きを身につけるよう指導しましょう(両サイドのバックスは絶えずキャプテンを視野に入れて、ピッチに立つ癖をつける)。その方法は、ミニゲームなどの実践形式で、オフサイドの意識を両軍に与えて、普段からの練習で積み上げていくのが一番です(5対5がひとつの目安です。攻める側の陣容は、前列にフォワードを3人、二列目にミッドフィールダー2人かその逆。守る側は、ダブルボランチにフラットスリーの組み合わせとします)。少年サッカーのレベルでは、中田選手のように、後ろ向きで前を見ないままパスを送ってくるようなテクニックはありませんから、基本に忠実に、2列目以降(特に2列目)の、ボールの動きをマークする癖をこのディフェンダー(フラットスリーの3選手とその前を守るボランチの2選手)に与えることで、相当効果はあがるはずです。

 一部では、フラットスリーやオフサイドトラップが、本来育つべきオーソドックスなストライカー(ロナウドやマラドーナなどに代表される、タフなドリブラー)の卵をつぶしてしまっていると言われていますが、僕たち現場で教える者にとって、非常に優れた少数のストライカーを世に送り出すのと同じくらいに、チームスポーツを通じて、普通の子供達に優れたチームワークがもたらす勝利や奇跡の数々を伝えたいし、その喜びを分かち合っていきたいと思っているのです。

 最後に、どのような作戦を子供達に教えるかということも大事ですが、それ以前に、子供達ひとり、ひとりの個性を見極めて、あなたのチームに合ったポジショニング(布陣)を出来るだけ丁寧に見極めるところから始められると、いいのではないでしょうか。 

回答ZORRO

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