ドロップアウトの達人 Vol. 49
 

 7月14日、月曜日朝8時のABCラジオのニュースで、ワシントン発ロイター電のニュースとして以下のものが取り上げられていた。
  「アメリカ国防総省(ペンタゴン)は、現在の朝鮮半島の不安定な情勢の中から、特に隣国の日本に対して、有事の際の被害が集中するのではないかとの見通しを示し、緊急の対策を要すると日本政府に対して連絡を行った(北朝鮮の中距離ミサイル“ノドン”は、現在200発の照準をすべて日本に設定しているとの情報から)。」

 7月12日土曜日のシドニーモーニングヘラルドのニュースレビューは、一面に軍刀を装着してパレードする北朝鮮兵士の姿を紹介している。昨年末に日本の国会でも証言したドイツ人医師が、北朝鮮から中国への脱北者のその後について具体的に供述している。
 「脱北者を受け入れる中国側の組織は、スネークヘッドによって運営されています。そこでは若い女性は全て売春組織に売り飛ばされ、若い男性は鉱山やダム建設などの肉体労働者として引き抜かれ、残りはすべて北朝鮮に送り返されるのです。」

 北朝鮮では送り返された人々をそのままガス室に送り、第二次大戦のアウシュビッツ強制収容所のように、年間数万人を処刑しているそうなのである。北朝鮮を逃げ出したものは処刑出来ると法にもうたっている為、国連人権擁護委員会のメンバーもどうすることも出来ないそうなのである。
  前述のドイツ人医師は、アメリカの上院でも公聴会に証人として出席している。赤十字の関係で彼がピョンヤンに滞在していた期間は、わずか1年半だそうだが、世界中から飢餓で苦しむ人々に送られてくる北朝鮮への支援物資が、人々に与えられることは無く、一部のエリート達の間に配られたあと、ピョンヤンなどの都市部の高級店にそのまま並ぶそうである。彼の勤めていた病院には、麻酔も薬も無い状態が日常で、赤十字を通しての救援物資までが、高級店に足を運ばなければ調達出来ない状態であったという。

 「南北合意については、世界中の人達が賞賛していますが、あれは南が大金を払って北に頼んで実現したやらせだったのです。」
 ドイツ人医師によると、脱北者の惨状を知った彼は、まず最初に韓国の政府高官にその事実を訴え、韓国政府が人道的見地から同じ朝鮮人である彼らを救う行動を取ってくれるものと期待していたのだが、逆にKCIA(韓国がまだ軍事政権だった60年代に確立された政府のシークレットサービス機関。金大中元大統領*が日本国内から誘拐された時に、実行した組織であるといわれている)から、朝鮮人同胞の恥になるとして命を狙われるようになり、アメリカ政府の庇護の下に情報を収集するうちに、南北合意もやらせであったと確信したそうなのである。

ここで僕の隣人の韓国人のおじさんの話もついでに紹介しておくことにする。
  「50年以上も前の朝鮮戦争で一番被害を受けたのが、朝鮮半島に住む人達でした。朝鮮戦争自体が、南下してくる共産勢力とそれを食い止めようとする資本主義勢力のイデオロギーの争いでしたから(60年代のベトナムや70年代のアフリカが同じ)、終わってみれば、半島の南半分にはアメリカ軍が、北半分には中国とソビエトの軍隊が布陣するという、平和にはほど遠い状況が待っていたのです。しかも、それが現代まで続いてしまっている。そして、世界中の人々が、これはまるで朝鮮人同士の内戦かなにかだととらえてしまっている。けれども、良く考えてみれば、もともと北と南を分けてしまったのはイデオロギーの違いであって、半島に住む民衆同士の争いではなかったのです。そこで、南北合意に動いたのです。もうお互いにミサイルを突きつけあうのは止そうじゃないかと。」
  「もともと、日本という国の位置付けは、東アジアでは高いものではありませんでした。現在の日本人が何でも白人社会をお手本にするように、遣唐使以前から1000年以上もの長い間、日本人は中国の文化が朝鮮半島を通って日本にやって来るのを、首を長くして待っていたのです。ところが、明治維新以来、日本はイギリスの手先として中国(清国)、ロシアと戦い、その手柄で朝鮮半島や台湾を領有し、東アジアの最果ての島国だったはずの小国が、ついには大陸に軍隊を派遣するまでに増長してしまいました。幸い、アメリカに原爆を落とされてお灸を据えられたのもつかの間、今度は朝鮮戦争の特需をきっかけに這い上がり、最近ではG8などといって、まるで自分達が白人ででもあるかのような振る舞いをしています。」
  「過去に朝鮮の人が一度でも日本を攻めたことがあったでしょうか?むしろ、663年ハクスキノエの戦い以来、16世紀秀吉の朝鮮征伐、明治維新西郷の征韓論など、侵略を繰り返してきたのは、日本の方ではないでしょうか。」

 7月14日、日本のインターネットには、ワシントン発のロイター電に触れているものは何も無かった。そのかわりにインド洋に展開していたイージス艦を急遽、日本海に戻すことにしたというニュース(イージス艦には迎撃用のミサイルが装備されている)と、江藤*とかいう自民党の代議士が「南京虐殺はでっち上げである。日本は国際連盟の指導のもと、両国の合意の下に朝鮮を併合した。日本が朝鮮半島を統括していた間に、良いことも沢山してやった」とコメントしたことに対する南北朝鮮や中国の非難の反応が取り上げられていた。

 こういう人材が政治の中枢にいて、いつまでもいつまでも、隣国を刺激し続けているうちに、ある日、本当に東京や大阪あたりできのこ雲があがってしまうのではないだろうか。天安門広場に集まった中国軍の戦車隊を、紙袋を下げた一人の青年が道の真中に身体を張って止めてしまった映像をおぼえているだろうか?同じ一人の人間の発信するメッセージが、こうも違う現実を目の当たりにするにつけ、お互い、今、この瞬間を大切に生きて行こうと言う以外、適当な答えがみつからないこの頃なのである。

* 金大中事件…1973年8月8日未明、都内ホテルオ−クラで起きた誘拐拉致事件。
* 江藤隆美…自民党江藤、亀井派会長の江藤隆美総務庁長官(8月7日、突然、今回の任期満了を待って、引退するむねを表明)。
(編集部より)韓国の財閥、現代グループの鄭夢憲(チョン・モンホン)・現代峨山会長が8月4日、ビル12階の執務室から飛び降り自殺した。同会長は、現代グループによる朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)へ計5億ドルを送金、このうち1億ドルは当時の金大中(キムデジュン)政権が南北首脳会談実現の見返りとして送金したもので、その不正送金事件で起訴され、現在も公判中だった。

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